お茶をひとくち飲んだ祖父はそれをゆっくりと味わうようにしていたが、やがておれに聞き返してきた。
「どうしてまたそんなことを今頃聞く気になったんじゃな?」
穏やかな表情だがその瞳の奥にある気持ちはうかがい知れない。

「美花のお義母さんと母芙蓉が親友だったことを今朝聞いたのです。母が父とは幼ない頃からの知り合いだったということも聞きました」

「当時のことは子どもとして聞きづらいこともあるかとは思うが… 結婚して一人前の男になる良い機会ではあるの」
「はい。美花のためにも自分の中に燻り続けて溜まった澱を洗い流したいという気持ちが湧いてきたのです」

祖父母は少し顔を見合わせた。
それから祖父は当時を回顧するように目を閉じ、いっとき静かな時間が流れた。
庭から初夏の爽やかな風が流れ込み、俯く美花の後れ毛を揺らした。
遠くでどこか長閑な鳥のさえずりが聞こえたとき、祖父は目を開けた。

「詠美と葵の歳が10も開いているのを不思議に思ったことはあるか?」
「それが何か関係あるのですか?」

「美江は詠美を生んだ2年後に、次に授かった子どもを流産したのじゃよ。亡くなった赤子は男の子だったそうだ。それから夫婦は何年も次の子どもに恵まれなかった。可哀想なことに美江は子どもを望めない体になっておったのじゃ」

「芳雄も美江もそれが分かった時にかなり落胆しておったが、その落胆の意味が違っておったのがそもそも事の発端じゃの」

「芳雄は、日向グループの後継者に男の子おったようだ。そのことで芳雄が美江を責めるようなことはしなかったはずだが、美江は嫁として辛かったことであろう」

「わたし達はそのことを気にしなくていいと美江さんには何度も言ったのですよ。詠美は幼かったけれどしっかりしているし、いずれ結婚すれば娘婿が跡を継いでくれるかもしれませんしね」

「それだとて、将来詠美が望まなければ無理強いするつもりもなかった。後継者は血の繋がりなどなくても実力のあるものが継げばよいことじゃ。わしらがその考えを夫婦に、特に芳雄にきちんと告げておけばよかった」
祖父が深いため息をついた。